著者の齋藤孝さんがアメリカを旅行したとき、現地の人から「日本らしいことを何か見せてほしい」とお願いをされました。とっさに空手の技を披露したところ、すごく喜んでもらえた一方で、「もっときちんと日本の良さを伝えられないものかなあ」と感じた経験があるそうです。こうして改めて日本の魅力を分析し、小学生にもわかりやすい表現でまとめてくれたのが本著の内容となります。
もしかすると、私たちは日本にずっと生活していながら、日本の良さや魅力について十分に気づかないで過ごしているのかもしれません。この本を読むことで、日本の魅力について、さらに日本がこれまで大切に守り続けてきたことについて再発見することができました。最後まで読み進めたとき、日本のことがもっと好きになり、日本という国を誇りに思えるようになると思います。
それではさっそく始めていきましょう。
日本は、外国人からどう思われているのか?=謎の国??
はじめに、日本は、外国の人から「不思議な国」だと思われています。
その理由は、「2つの奇跡」を起こしたからです。
1つめの奇跡:明治維新について
産業革命以降、ヨーロッパやアメリカの国々は、血のにじむような多くの努力と苦労を経て、近代化を成し遂げていきました。蒸気機関が生まれ、鉄道が走り、世の中の仕組みやお金の動きも変化し、さらには民主主義が誕生して国民が投票によって物事を決める仕組みができていきました。
ヨーロッパやアメリカが近代化した後に世界中が驚いたことは、それまでノーマークだった日本がいち早く近代化に成功したことだったそうです。日本はヨーロッパから見るとユーラシア大陸の東のずーっと端にあり、「極東」と呼ばれていました。江戸時代には鎖国をしていたため、外国とはまったくといっていいほど連絡を取ってこなかった国が、わずか20年の間にどのように近代化することができたのか。これが1つ目の奇跡です。
2つめの奇跡:戦後の復興
第2次世界大戦で敗れた日本は、国土はボロボロで、アメリカに占領されました。
その20年後、どうなったかというと…。
高速道路が通り、新幹線も走っている。復興を遂げ、アジア初のオリンピックを開催するまでに。高度経済成長を達成し、気がつくとアメリカに次ぐ世界第2位の経済大国になった。
この2つのエピソードから、
「日本に20年の時間を与えたら、完全に追いついて追い越されてしまう、とんでもない民族だ!」
「その秘密を知りたい」と世界中の人から不思議に思われたのです。
どうして日本は、2つの奇跡を起こすことができたのでしょうか。
日本の秘密=それは「型(KATA)」
それは「日本人は型を持っているから」だと著者は強調しています。
空手などの武道もお茶はお花も、日本文化には型が多くあります。
身近な例では、小学校で習う「九九」。私たちは知らず知らずのうちに、型を学び、反復練習をすることで自分のものとして使いこなすことができるようになっているのです。
型は一見すると堅苦しそうと思われるかもしれません。
しかし一度型を身につけると、自由度が格段にあがります。
そして型を繰り返していくとどうなるか。あきらめずに物事をやり遂げようとする「粘り強さ」が身につくといいます。
私自身も空手とけん玉の資格を持っているのですが、これらの型や技は、反復することによって、気がつくとふっとできるようになっている瞬間があります。そうすることで技のバリエーションが増え、組み合わせたり、入れ替えたりすることに応用が利くのです。
粘り強さが身につくと次に、気持ちが安定します。
すぐにカーッとなったり、バカみたいに大喜びして転げ回ったり、あるいは悲しみで落ち込んで動けなくなったりすることについて、古来より日本人はよくないことだとされてきました。
逆に気持ちが安定している人間を尊敬してきた文化があったのです。
そして、気持ちが安定すると、「礼儀」を大切にできるといいます。
日本人が礼儀を大切にする理由は、お互いが気持ちよく過ごせるから。
海外においては、礼儀は、ハイレベルの教育を受けた人が特別にお金を払って学んだり身につけたりする歴史もあるそうです。一方で、日本ではすべての人が、当たり前の習慣として礼儀を大切に守ってきました。このことが海外の人からは高く評価されているのです。
このように「型」→「粘り強さ」→「気持ちの安定」→「礼儀」という習慣や考え方を自然と身につけてきた民族、それが日本人なのです。
型を極めることで、「道」が生まれる。
そしてこの4点セットを、たった一言で表す言葉があります。
それが、「道」です。
道とは「その行為を通して自分自身を高めていこうとする考え方」のことです。
柔道、弓道、茶道、華道、武士道。
これらの道の根本にある考え方は向上心です。
優れた人格を身につけ、人間性を高めていくために常に訓練し続けることです。
そして道には、決して終わりがない、という考えがあります。
能を完成させた世阿弥が、「命に終わりはあるが、能には終わりはない」という言葉を残しています。道を求めていくことで、優れた人間になることを、日本人は大切にしてきたのです。
日本人の性格について
明治維新の後、日本で英語の先生をしながら日本を海外に紹介したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は、著書「日本人の微笑の」中で、日本人の性格について次のように表現しています。
「日本人のよさは、深刻さに欠けることだ」
日本人は自分がいかなる厳しい状況にあるときにも、笑顔を大切にしている。それは礼儀作法の中で洗練されてきたものであり、相手を不愉快な気持ちにさせない心配りのようである、という印象を受けたそうです。
このような日本人の性格がどこから生まれているのか。ハーンは、盆踊りを例にして説明しています。ハーンは盆踊りをする日本人を見て、日本人は幽霊とコミュニケーションをとりながら踊ることができると思ったそうです。
「八百万の神」という言葉の通り、日本には数え切れないくらいの神様がいて、自然の木々や石や虫や動物にもすべて神が宿っていると考えられています。そして日本の神様の特徴として、のんきでおおらかあること、そして人間を叱らないこと、などが挙げられます。
日本の神様は怖くない、というのは海外の他の宗教と比べると特筆すべきところです。
神様がおおらかで人間を叱らないところから、日本では「大人は子どもを強く叱らない」という文化がありました。江戸~明治初期に日本を訪れたある外国人は日本のことを「子どもの楽園」と表現しました。日本は子どもを中心に物事を考えられる国、として世界に知られていたのです。
また、日本は大人と子どもの線引きが外国に比べると曖昧な国です。
言い換えると、大人が子どもの気持ちをずっと忘れないということです。
例えば、感情の切り替えが早いこと。パッと火が付くと熱中し続けること。また、目の前のことをなんでも遊びに変えちゃおうとするパワーがあります。戦後の復興をわずか20年で成し遂げた秘密もここにあります。
1964年に東京オリンピックの開催が決まったとき、どうしても新幹線を開通させようと、絶対に間に合わないだろうと言われた事業に、みんなで夢中になって取り組み、完成させました。
また、子どもの目線でいられることで、漫画やアニメ、おもちゃの文化のクオリティが抜群に高いのです。日本のポップカルチャーは、子どもを全力で喜ばせたいという気持ちが生み出したという見方もできるようです。
日本の経済成長の秘密は小学校にあり?
さらに、このような日本人の強みを存分に発揮してきたのが、戦後の日本の経済成長にあります。
例えばトヨタ自動車。
かつては日本が国産の車など作れるのかと、思われていたときもありました。
ところが今や世界中の企業がトヨタ方式を見習おうとしています。
トヨタ方式とは、徹底的に工夫をこらすことで無駄をなくし、もっと改善できないかを考えること。そのためにチームを作り話し合い、改良に成功したら会社全体で実践していきます。このトヨタ方式について著者は、まるで小学校の班活動のようだと表現しています。班を作ってお題に沿って相談してポスターを作ったりしながら、クラスの前で発表をします。
知恵を出し合い、意見をまとめていく。小学校を出て、中学、高校、大学を出て、トヨタに入った人はまた小学校のやり方に戻っている、という面白さがあります。
小学校生活を制する者は世界を制する!のです。
吉田兼好の徒然草から見る、日本人の心遣い
徒然草の一節に、次のような話があるそうです。
家に訪問してきた人を送り出すときのこと。
その人は、訪問客を見送った後に、すぐに戸をぴしゃっと閉めないで、軒先でしばらく月を眺めているふりをしている。しばらく余韻を味わってから、頃合いをみてすーっと静かに戸を閉める。ここに相手への細かな心遣いがあるといいます。相手に向かってずっと手を振り続けるというよりも、今夜の月は綺麗だなあと見ているふりをしながら別れを徐々にかすませることで、別れ際を美しくすることができるのだ、と吉田兼好は分析しているそうです。
はるか昔に書かれた吉田兼好のこの一節を読んで、少しでも共感する気持ちが起こるのは、私たち日本人の中にも思いが受け継がれている証拠なのだと思います。
最後にオススメポイント
ここまで、日本の魅力をたくさん思い出すことができたのではないかと思います。
型→粘り強さ→気持ちが安定→礼儀の4ステップから道が生まれること。また、かつての日本人が作り上げてくれた物の見方や生き方、他者への細やかな心配りと接し方を引き継いで、日本を誇れる生き方をしていきたいと感じました。より詳しく知りたい方は、本編を是非読んでみてください。
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